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「これは、若い女性のようですが」 「彼女の名前はC.C.。世界解放日より以前から黒の騎士団に所属していたなら、彼女を知らない者はいないでしょう」 世界解放日。 それは悪逆皇帝が英雄ゼロに討たれた日だった。 「黒の騎士団の中枢にいた人物、という事でしょうか」 「そうです。ですが、彼女自身は黒の騎士団の幹部でも、団員でもありません。以前黒の騎士団と行動を共にしていた皇議長のように特殊な立場にいる人物です」 「特殊な?皇議長とおなじく、どこかの国の皇族の血筋という事でしょうか」 「いえ、彼女は天涯孤独で、高貴な血を持つ生まれかは解りません。彼女は、ゼロの愛人として有名な女性です」 ざわり、とスタジオ内がざわめいた。 「ゼロの愛人、ですか。そのような人物がいたとは初耳です」 「黒の騎士団の結成当初から、ゼロと共にいたといわれています。童顔な女性で、10代半ばに見えますが彼女は私よりも年上です。恐らく今も5年前と変わらない容姿だと思われます」 美少女という言葉が当てはまる女性が、その時のままの姿を維持している。それだけでも多くの人は彼女に興味を抱いた。特に女性は、若さの秘訣を教えてほしいとさえ思っていた。 「成るほど、そのゼロの愛人に何か問題があるのですか?」 「こちらをご覧ください」 ミレイが手を差し出すと、そこにはゼロの映像が映し出された。 再生されたその映像は、誰もが知る内容だった。 『私は、帰ってきた』 ブラックリベリオンで死んだとされていたゼロが、1年の空白の後再び姿を現した時の、あの映像だった。かつて何度も目にした懐かしい演説だが、これが一体何なのだろうと、ミレイに目を向けると、彼女は映像を止めた。 「皆さんご存じのように、死んだとされていたゼロが、再び姿を現した時の映像です。何故私がこの映像を流したのか。それは、ここに映っている人物が、ゼロ本人ではなく影武者だからです」 「影武者、ですか!?」 いや、仮面の下が解らない以上、誰が入っていても解らない。 本物か偽物かなど、判別の仕様がないのだから。 「声はゼロ本人のものですが、ここに映っているのは今お話ししたC.C.です」 「このゼロは女性!?」 「仮面で顔を、マントで体を隠し、全身が映らないようにすることで身長も解らないようにしています。この時のゼロがC.C.だったと、黒の騎士団零番隊隊長、紅月カレンから情報を得ています」 黒の騎士団のもう一人の英雄の名前に、では本当に?とざわめいた。 「そして、彼女だけは最初からゼロの正体を知っていました。彼女は黒の騎士団の味方ではなく、ゼロただ一人の味方なのです」 「成るほど、そのような人物がいたとは知りませんでした」 次々明かされる真実に、年配のアナウンサーはハンカチで額に浮いた汗をぬぐった。普通であれば偽情報を疑うが、ここにいるミレイは黒の騎士団と、そしてナナリー代表に強いパイプを持っている。その彼女が、偽りの情報でこのような爆弾発言をしたりはしないだろう。 「先ほども言ったように、彼女は黒の騎士団と行動を共にし、協力していますが、あくまでもそれはゼロの組織だからに過ぎません。ゼロがいなければ、黒の騎士団は彼女にとって何の価値も無いのです」 かつては反ブリタニア組織の一つに過ぎなかった黒の騎士団は、今では世界唯一の軍隊だ。それに対して、無価値だと言い切れる者は、反黒の騎士団派を除けば、C.C.ぐらいだろう。 だが、何故今までの話の流れで、この女性の事を? まだ何かあるのか、これ以上の爆弾が。 「こちらをご覧ください」 ミレイが手を差し出す。 それは、次なる映像が現れる合図だった。 *** 「C.C.さんはゼロの愛人だったのですね」 少しさびしそうに、ナナリーは言った。 彼女はゼロの正体を知る一人だ。 今の言葉は、ルルーシュの愛人だといわれたのと同じことで、その事に少なからずショックを受けているのだ。 「私という妻がありながら、ゼロ様は常にC.C.を連れておりましたわ」 不貞腐れたようにカグヤは言った。 会議室はざわめき続けていて、こちらの会話は誰にも聞こえていなかった。会議を始めろという声さえ出ないほど、皆はこの特番に興味を抱いているのだ。 当然か。 英雄ゼロの、悪逆皇帝の情報なのだ。 それも、当時彼らの傍にいなければ解らないような、情報。 だが、ここで一部の代表はおかしなことに気づく。 ゼロの味方であるC.C.は、常にゼロの傍にいる。 だが、今彼女は何処に? 合集国決議第一条の時にも彼女はゼロの傍に、黒の騎士団と共にいた事を、ここにいる代表たちの多くは思いだしていた。 そして、あの日以降彼女の姿を見ていないことも。 それが意味する答えを、彼らはまだ知らなかった。 |